2026年10月1日より、短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)加入要件から、いわゆる「106万円の壁」とされてきた月額8.8万円以上の賃金要件が撤廃されました。これにより、多くのパート従業員が社会保険の新たな適用対象となり、手取り収入に影響が生じる可能性があります。小売・飲食・サービス業の人事担当者や店長は、従業員の働き控えを防ぎ、安心して働ける環境を整備するため、制度変更の内容を正確に理解し、賃金体系やシフトの見直し、適切な情報提供を行うことが急務です。
この記事の要点
- 2026年10月1日より、短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)加入における「106万円の壁」(月額8.8万円の賃金要件)が撤廃されました。
- これにより、週20時間以上勤務するパート従業員は、企業規模要件を満たせば社会保険の適用対象となります。
- 社会保険加入による保険料負担で、パート従業員の手取り収入が一時的に減少する可能性があります。
- 企業は、従業員への正確な情報提供、賃金体系やシフトの見直し、政府の支援策(キャリアアップ助成金、保険料調整制度など)の活用を検討する必要があります。
- 雇用保険の加入要件変更(週10時間以上)は2028年10月施行予定であり、社会保険の変更とは時期が異なります。
何が起きたのか
2026年10月1日、短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大を巡る大きな変更として、これまで加入要件の一つとされてきた「月額賃金8.8万円以上」という賃金要件が撤廃されました。これは、2025年6月に成立した「令和7年年金制度改正法」に基づくもので、通称「106万円の壁」の撤廃として注目されています。
この変更により、短時間労働者が社会保険に加入する主な要件は、「週の所定労働時間が20時間以上」「2ヶ月を超えて雇用される見込みがある」「学生ではないこと」となり、これに企業規模要件が加わります。
なお、雇用保険については、2028年10月1日から、週の所定労働時間の要件が「20時間以上」から「10時間以上」に引き下げられる予定です。これは社会保険の適用拡大とは異なる法改正であり、施行時期も異なりますので注意が必要です。
| 時期 | 対象 | 内容 | 発表元 |
|---|---|---|---|
| 2026年10月1日 | 短時間労働者(パート・アルバイト) | 社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入要件から、月額賃金8.8万円(年収約106万円)以上の賃金要件が撤廃。主な加入要件は「週20時間以上の勤務」「2ヶ月を超える雇用見込み」「学生ではないこと」および企業規模要件となる。 | 厚生労働省、日本年金機構(令和7年年金制度改正法) |
| 2026年10月1日 | 社会保険に新規加入する短時間労働者 | 「保険料調整制度」が開始。新規加入者の社会保険料負担を最長3年間軽減し、軽減分は事業主が立て替え後、納める保険料から全額控除される。 | 厚生労働省 |
| 2026年10月1日 | パートタイム・有期雇用労働者 | 「パートタイム・有期雇用労働者法」改正施行。雇い入れ時の労働条件明示事項に「正社員との待遇の違いについて説明を求めることができる」旨の追加、および同一労働同一賃金ガイドラインの厳格化。 | 厚生労働省 |
| 2026年4月1日 | 配偶者の扶養内で働く労働者 | 「130万円の壁」の判定方法が変更。実際の収入ではなく、労働条件通知書等に記載された年収見込みで判断されるようになり、一時的な収入増では扶養から外れにくくなる。 | 厚生労働省 |
| 2027年10月以降 | 短時間労働者(パート・アルバイト) | 社会保険の企業規模要件が段階的に縮小・撤廃される予定(2027年10月:従業員数36人以上、2029年10月:21人以上、2032年10月:11人以上、2035年10月:企業規模要件撤廃)。 | 厚生労働省(令和7年年金制度改正法) |
| 2028年10月1日 | 短時間労働者(パート・アルバイト) | 雇用保険の加入要件が「週20時間以上」から「週10時間以上」に引き下げられる予定。 | 厚生労働省(令和7年雇用保険法改正) |
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背景:なぜ今この動きなのか
今回の社会保険適用拡大の背景には、少子高齢化による労働力人口の減少と、それに伴う人手不足の深刻化があります。特に小売・飲食・サービス業では、パート・アルバイト従業員が重要な労働力となっており、その働き控えは企業経営に直結する課題でした。
これまでの社会保険制度では、パート従業員が一定の収入(年収約106万円や130万円)を超えると、社会保険料の自己負担が発生し、結果として手取り収入が減少する「年収の壁」が存在していました。この手取り減少を避けるため、多くの従業員が労働時間を調整し、働く意欲があっても働き控えをする状況が常態化していました。
また、「106万円の壁」の基準となっていた月額8.8万円という賃金要件は、全国的な最低賃金の引き上げにより、週20時間働けば多くの地域でこの金額を超えるようになり、実質的に形骸化していました。こうした状況を踏まえ、より実態に即した制度へと見直す必要性が高まっていたのです。
政府は、人手不足解消と多様な働き方の推進、そして将来の年金制度の持続可能性を確保するため、短時間労働者の社会保険加入を促す方向で制度改正を進めています。社会保険に加入することで、従業員は将来受け取る年金が増える、病気やけが、出産時に手当金を受け取れるといった保障の充実が得られるメリットもあります。
店舗・企業の人事にどう影響するか
今回の社会保険適用拡大は、パート・アルバイトを多く雇用する小売・飲食・サービス業の店舗や企業の人事に多岐にわたる影響をもたらします。
まず、**人件費の増加**が挙げられます。これまで社会保険の適用対象外だった従業員が新たに加入対象となることで、企業は従業員分の社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)を負担することになります。例えば、月収10万円の従業員が新たに社会保険に加入した場合、企業は年間約17万円程度の追加負担が発生する試算もあります。
次に、**従業員の手取り収入の減少**が懸念されます。社会保険料の個人負担分が発生するため、総支給額が変わらなくても手取り額が減少します。これにより、従業員が「働き損」と感じ、労働時間を短縮したり、退職を検討したりする「働き控え」が再び生じる可能性があります。特に、物価高が続く中で手取りの減少は従業員の生活に直接影響するため、モチベーション低下や離職につながるリスクがあります。
さらに、**採用競争の激化**も予想されます。社会保険の適用拡大は多くの企業に共通する課題であるため、従業員への説明や対応が不十分な企業は、求職者から敬遠される可能性があります。社会保険加入によるメリット(将来の年金増額、傷病手当金など)を適切に伝え、安心して働ける職場であることをアピールすることが、採用力維持の鍵となります。
また、2026年10月からは「パートタイム・有期雇用労働者法」の改正も施行され、正社員とパート・有期雇用労働者との間の待遇差について、従業員が説明を求めることができる旨を明示する義務が生じます。これにより、賃金だけでなく、賞与や退職手当、各種手当、休暇、福利厚生など、あらゆる待遇について合理的な説明が求められるようになります。
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人事担当者や店長は、今回の制度変更に対応し、従業員が安心して働ける環境を整備するために、以下のステップで対応を進めることが重要です。
STEP1:従業員への正確な情報提供と丁寧な説明
社会保険適用拡大による影響を最も受けるのは従業員自身です。手取り減少への不安を解消するためには、制度変更の内容、社会保険加入のメリット(将来の年金増額、傷病手当金・出産手当金など)、そして企業としての対応方針を、対象となる従業員一人ひとりに丁寧に説明することが不可欠です。説明会開催、個別面談、Q&A資料の配布など、複数の方法で理解を深める機会を設けましょう。特に、社会保険料の負担軽減を目的とした「保険料調整制度」についても、対象となる従業員にその内容を伝えることが重要です。
STEP2:対象従業員の洗い出しと働き方の意向確認
現在の勤務状況から、2026年10月以降に社会保険の適用対象となる従業員を正確に把握しましょう。その上で、各従業員の働き方に関する意向(労働時間を増やすか、減らすか、現状維持かなど)をヒアリングし、個別の状況に応じた対応を検討します。特に、扶養内で働きたいと考える従業員や、手取り減少を懸念する従業員に対しては、慎重なコミュニケーションが求められます。
STEP3:賃金体系・シフトの見直しと調整
従業員の働き控えを防ぎ、モチベーションを維持するためには、賃金体系やシフトの見直しを検討する必要があります。例えば、社会保険料負担を考慮した賃上げ、手当の新設、労働時間の調整による手取り額の維持などが考えられます。また、週20時間未満で働くことを希望する従業員と、週20時間以上で社会保険に加入したい従業員の両方のニーズに対応できるよう、多様なシフトパターンを検討することも有効です。
STEP4:政府の支援策・助成金の活用検討
社会保険適用拡大に伴う企業の負担増を軽減するため、政府は様々な支援策を提供しています。特に「年収の壁・支援強化パッケージ」の一環である「キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)」は、短時間労働者を新たに社会保険に適用させ、かつ賃上げなどの収入増加の取り組みを行った事業主が対象となります。また、2026年10月からは「保険料調整制度」も開始されており、新規加入者の社会保険料負担を軽減する仕組みも活用できます。これらの制度を積極的に活用し、企業の負担を抑えつつ、従業員の働きがい向上を目指しましょう。
STEP5:労働条件通知書および就業規則の確認・改訂
2026年10月1日施行のパートタイム・有期雇用労働者法改正により、雇い入れ時の労働条件明示事項が追加されました。正社員との待遇の違いについて説明を求めることができる旨を明示する義務が生じるため、労働条件通知書のフォーマットを速やかに改訂する必要があります。また、就業規則についても、社会保険加入に関する規定や賃金規定などを、今回の改正内容に合わせて見直しましょう。
対応チェックリスト
- ☐ 2026年10月1日以降の社会保険適用拡大について、従業員への説明会や個別相談を実施したか
- ☐ 社会保険の新規適用対象となる従業員を正確に把握し、個別の働き方意向を確認したか
- ☐ 賃金体系やシフトの見直し、手当の新設など、従業員の手取り減少対策を検討したか
- ☐ キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)や保険料調整制度など、政府の支援策の活用を検討したか
- ☐ 労働条件通知書の明示事項を改正パートタイム・有期雇用労働者法に合わせて更新したか
- ☐ 就業規則の社会保険加入に関する規定や賃金規定を見直したか
- ☐ 2028年10月施行予定の雇用保険加入要件変更(週10時間以上)についても情報収集を開始したか
現場で活かすためのポイント
今回の社会保険適用拡大は、単なる制度変更として捉えるだけでなく、店舗の採用・定着・シフト管理、そしてパート・アルバイト従業員の働きがい向上に繋がるチャンスと捉えることができます。
まず、採用においては、社会保険完備のメリットを積極的にアピールすることが重要です。特に、将来の年金や傷病手当金などの保障を重視する求職者にとって、社会保険への加入は大きな魅力となります。また、手取り減少への不安を解消するため、企業が「保険料調整制度」などを活用して従業員の負担軽減に努めていることを伝えることで、求職者の安心感に繋がります。
次に、従業員の定着促進のためには、個々の従業員のライフスタイルやキャリアプランに合わせた柔軟な働き方を提案することが有効です。例えば、社会保険に加入して長く働きたい従業員には、安定したシフトやキャリアアップの機会を提供し、扶養内で働きたい従業員には、労働時間の上限を明確にしたシフトを組むなど、多様なニーズに応える姿勢が求められます。従業員との定期的な面談を通じて、働き方に関する希望や不安を丁寧に聞き取り、適切なサポートを行うことで、エンゲージメントの向上に繋がるでしょう。
シフト管理においては、従業員の社会保険加入状況や働き方の意向を考慮した、よりきめ細やかな調整が求められます。データに基づいたシフト作成や、従業員同士でシフトを融通し合えるような仕組みを導入することで、従業員の満足度を高めつつ、店舗の安定稼働を実現できます。また、賃金体系の見直しと合わせて、労働時間や生産性に応じた公正な評価制度を構築することも、従業員のモチベーション維持に不可欠です。
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よくある質問
Q. 「106万円の壁」が撤廃されたら、すべてのパート従業員が社会保険に加入するのですか?
A. いいえ、すべてのパート従業員が加入するわけではありません。2026年10月1日以降も、社会保険の加入には「週の所定労働時間が20時間以上」「2ヶ月を超えて雇用される見込みがある」「学生ではないこと」という要件に加え、企業規模要件(現時点では従業員数51人以上の企業)を満たす必要があります。
Q. 社会保険に加入すると、手取りはどのくらい減るのでしょうか?
A. 社会保険料の金額は、従業員の賃金や年齢、加入する健康保険組合、お住まいの地域によって異なります。例えば、月収10万円の従業員の場合、年間約19〜20万円の社会保険料負担が発生する試算もあります。手取り減少額は個別の状況により変動するため、従業員には正確な情報提供と試算例を示すことが重要です。
Q. 「130万円の壁」はどうなりますか?
A. 「130万円の壁」自体は廃止されず、引き続き存在します。ただし、2026年4月1日からは、扶養の判定が「実際の年収」ではなく「労働条件通知書等に記載された年収見込み」で判断されるようになり、一時的な収入増では扶養から外れにくくなるなど、実質的に緩和されています。
Q. 雇用保険の加入要件も変わるのですか?
A. はい、雇用保険の加入要件も変更されますが、施行時期が異なります。2028年10月1日から、週の所定労働時間の要件が「20時間以上」から「10時間以上」に引き下げられる予定です。これは社会保険の適用拡大とは別の法改正です。
Q. 企業が利用できる助成金はありますか?
A. はい、社会保険適用拡大に伴う企業の負担を軽減するため、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」として様々な支援策を提供しています。特に「キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)」や、2026年10月開始の「保険料調整制度」の活用を検討できます。
まとめ
- 2026年10月1日、短時間労働者の社会保険加入における「106万円の壁」(賃金要件)が撤廃され、社会保険の適用が拡大されました。
- これにより、週20時間以上勤務するパート従業員は、企業規模要件を満たせば社会保険の適用対象となり、手取り収入に影響が生じます。
- 企業は、従業員への丁寧な説明、賃金体系・シフトの見直し、政府の支援策(キャリアアップ助成金、保険料調整制度など)の活用が求められます。
- 「130万円の壁」は存続しますが、2026年4月からは判定方法が緩和されています。
- 雇用保険の加入要件変更(週10時間以上)は2028年10月施行予定であり、社会保険の変更とは時期が異なる点を理解しておく必要があります。
今回の制度変更は、従業員の働き方や手取り収入に大きな影響を与えるため、小売・飲食・サービス業の人事担当者や店長は、正確な情報に基づいた適切な対応が不可欠です。従業員との対話を重ね、安心して長く働ける環境を共に築いていきましょう。
出典・参考情報
- 2026(令和8)年10月に社会保険の短時間労働者に係る賃金要件が撤廃されました|日本年金機構
- 【2026年10月法改正】社会保険の加入条件はどう変わる?|社会保険の適用拡大による影響と対策 - 株式会社ステラパートナー
- ちょこ解 2026年10月から「106万円の壁」は「週20時間の壁」へ | お役立ち情報 | ソフトウェア開発/受託開発/コンサルティングのOSK
- 2026年10月から社会保険の適用拡大へ!106万円の壁(8.8万円要件)撤廃と2027年10月からの企業規模要件の変更を解説 - 社会保険労務士法人中央会計社
- 「106万円の壁」が撤廃|パート従業員の社会保険加入要件が変更|パチンコ・パチスロ業界ニュース&ビジネス情報 Amusement Japan
- 「年収の壁」への対応|厚生労働省
- Attention Required! | Cloudflare
- 適用拡大 Q&A|社会保険適用拡大特設サイト|厚生労働省
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