慢性的な人手不足に直面する小売・飲食・サービス業にとって、従業員の定着は喫緊の経営課題です。医療・福祉や物流・運輸といった他業種でも定着率の低さが顕著であり、業界ごとの特性を踏まえた対策が求められています。また、働き方改革の進展や、ブランクからの復帰を希望する人材、ベテランエンジニアのキャリア転換といった多様な人材の存在は、新たな採用戦略のヒントを与えています。本記事では、2026年の最新動向を基に、人手不足時代における定着率向上と多様な人材採用のための戦略を解説します。
この記事の要点
- 2026年、医療・福祉業で定着率の低さが全業種中最多となり、物流・運輸業でも課題が顕在化しています。
- 建設業では働き方改革が進み、残業削減や週休2日制の普及が進んでいます。
- 派遣の仕事を探す約8割が職歴にブランクがあり、復帰時の「採用されるか」という不安が最大の懸念です。
- ベテランITエンジニアの約半数がブルーカラー職への転向を視野に入れるなど、多様なキャリアパスが生まれています。
- 企業は、業界特性に応じた定着率向上策、多様な人材が活躍できる環境整備、そしてスキル人材の確保に向けた採用戦略を今すぐ実行すべきです。
何が起きたのか
2026年、各業界で人材に関する様々な動きが見られます。特に、医療・福祉業や物流・運輸業では従業員の定着が大きな課題として浮上しており、一方で建設業では働き方改革が着実に進展しています。また、労働市場ではブランクのある人材の復帰意欲や、ベテラン層のキャリア転換といった多様なニーズが顕在化しています。
| 時期 | 対象 | 内容 | 発表元 |
|---|---|---|---|
| 2026年5月27日~30日実施の調査 | 医療・福祉業 | 「定着率が低い」と回答した割合が42.4%で、全業種中最多となりました。また、「応募者数が集まらない」と回答した割合は54.8%でした。 | ミイダス、パーソル総合研究所 |
| 2026年5月27日~30日実施の調査 | 物流・運輸業 | 「定着率が低い」と回答した割合が35.4%で、全体の30.8%を上回りました。従業員の働きがいや組織状態の把握状況も全体を下回っています(働きがい18.3%、組織状態17.1%)。 | ミイダス |
| 2026年5月実施の調査 | 建設業 | 「採用がうまくいかない」と回答した割合が32.5%で全業種中2番目に高い一方、「定着率が低い」は24.2%と全体平均を下回りました。2024年4月からの時間外労働上限規制適用により、週休2日工事の普及や残業削減が進んでいます。 | ミイダス、国土交通省 |
| 2026年8月実施の調査 | 派遣の仕事を探すユーザー | 約78%が職歴にブランクがあると回答し、復帰時の不安として65%が「採用されるか」を挙げました。ブランク理由の最多は「出産・育児」で、そのうち66%が3年以上のブランクを経験しています。 | エン・ジャパン『エン派遣』 |
| 2026年5月実施の調査 | 40代~60代のフリーランスITエンジニア | 仕事のオファーが減ったと感じた年齢の平均は54.7歳でした。約半数がブルーカラー職への転向を視野に入れています。 | 株式会社モロ「レガシーフォース」 |
| 2026年9月調査、10月1日~12月2日発効 | 全国の企業・労働者 | 2026年度の最低賃金は全国加重平均で1,177円(前年度比+56円)となりました。最高額は東京都の1,280円、最低額は宮崎県の1,085円と地域差があります。企業が従業員を採用する際の最低時給は平均1,255円で、最低賃金との差は2年連続で縮小しています。 | 厚生労働省、補助金ポータル、帝国データバンク |
背景:なぜ今この動きなのか
これらの動きの背景には、日本全体の構造的な労働力不足と、それに伴う労働市場の多様化があります。少子高齢化による生産年齢人口の減少は、多くの産業で人材確保を困難にしています。特に、医療・福祉業や物流・運輸業は、社会インフラを支える重要な役割を担いながらも、業務の特性上、労働環境の改善が遅れがちであったり、賃金水準が他の産業に比べて見劣りしたりするケースがあり、人材が定着しにくい状況が続いています。医療・福祉業では、専門資格を持つ人材の不足に加え、夜勤やシフト勤務といった勤務条件が、個々の組織だけでは変えにくい要因として挙げられます。
一方、建設業では「2024年問題」(時間外労働の上限規制適用)を契機に、業界全体で働き方改革が急速に進められています。これにより、労働時間短縮や週休2日制の導入が進み、かつて「きつい・汚い・危険」と称されたイメージからの脱却を図り、若年層や女性など多様な人材の呼び込みを目指しています。
また、労働者の価値観も変化しています。年収だけでなく、ワークライフバランスや働きがいを重視する傾向が強まり、企業は単なる賃上げだけでなく、柔軟な働き方やキャリア支援を提供することが求められています。ブランクからの復帰を希望する層、特に「出産・育児」を理由とする女性は、希望の勤務時間や勤務地で働けることを重視しており、派遣という働き方がその受け皿となっています。 さらに、IT業界のベテランエンジニアが「54歳の壁」に直面し、新たなキャリアとしてブルーカラー職への転向を視野に入れる動きは、スキルや経験を持つ人材が従来の枠にとらわれず活躍できる場の可能性を示唆しています。
2026年度の最低賃金引き上げも、企業の人件費に大きな影響を与え、特に小売業などの賃金水準が低い業種では、経営を圧迫する要因となり得ます。 このような状況下で、企業は人材を「採用する」だけでなく、いかに「定着させ、活躍させるか」という視点に、より一層重きを置くようになっています。
店舗・企業の人事にどう影響するか
小売・飲食・サービス業の人事担当者や店長は、これらの労働市場の変化に直接的に影響を受けます。まず、医療・福祉や物流・運輸業と同様に、店舗型ビジネスも慢性的な人手不足に直面しており、従業員の定着率向上が最重要課題となります。特に、若年層の労働人口減少が進む中で、新規採用の難易度は高まる一方です。
最低賃金の全国的な引き上げは、人件費の増加に直結します。特に、アルバイトやパートタイマーが多くを占める店舗では、この影響は避けられません。賃上げは従業員のモチベーション維持に不可欠ですが、同時に収益構造の圧迫という課題も生じます。 企業は、賃上げと並行して生産性向上や業務効率化を推進し、人件費増に対応する必要があります。
また、建設業の働き方改革に見られるように、労働条件の改善は業界全体のトレンドです。小売・飲食・サービス業においても、長時間労働の是正や柔軟なシフト制度の導入、ハラスメント対策など、従業員が安心して長く働ける環境整備が求められます。これが進まない企業は、他社との人材獲得競争で不利になる可能性が高いでしょう。
ブランクからの復帰を希望する人材や、ベテラン層のキャリア転換の動きは、新たな採用ターゲット層の拡大を示唆しています。特に、出産・育児からの復帰を望む女性は、時間や場所に制約がある中で、希望に合った働き方を求めています。このような層を積極的に採用し、定着させるためには、柔軟な勤務体系や研修制度、キャリアパスの提示が不可欠です。また、ITエンジニアのブルーカラー転向の動きは、異業種からのスキル人材獲得の可能性を示しており、新たな視点での採用戦略が求められます。
人事課題の重心が「定着・活躍支援」へとシフトしていることからも、採用後の従業員エンゲージメントの向上、キャリア支援、リスキリング・アップスキリングの機会提供が、企業の成長に直結する重要な要素となります。 従業員一人ひとりの働きがいを高め、組織への貢献意欲を引き出すための施策が、今後の人事戦略の鍵を握るでしょう。
今やるべき対応
STEP1:自社の定着状況と課題を正確に把握する
まずは、自社の離職率や従業員エンゲージメントの状況を詳細に分析し、具体的な課題を特定することから始めます。特に、医療・福祉業や物流・運輸業の事例に見られるように、定着率が低いと感じている場合、その背景にある「働きがい」や「組織状態」を従業員アンケートやヒアリングを通じて可視化することが重要です。 離職理由を深く掘り下げ、部門や職種、年齢層ごとの傾向を把握することで、より効果的な対策を立てるための基礎データが得られます。
STEP2:柔軟な働き方とキャリア支援制度を整備する
ブランクからの復帰支援や、多様な人材の活躍を促すためには、柔軟な働き方を可能にする制度が不可欠です。短時間勤務、フレックスタイム制、リモートワーク(職種による)、希望シフト制の柔軟な運用などを検討しましょう。また、従業員が長期的にキャリアを形成できるよう、スキルアップ研修、資格取得支援、キャリアカウンセリングなどの機会を提供し、明確なキャリアパスを示すことが定着率向上につながります。特に、出産・育児からの復帰者に対しては、希望の勤務時間や勤務地を考慮した配置を検討し、安心して働ける環境を整えることが重要です。
STEP3:スキル人材の採用と育成戦略を強化する
人手不足が深刻化する中で、即戦力となるスキル人材の確保は喫緊の課題です。従来の採用チャネルに加え、異業種からの転職者や、ベテラン層の新たなキャリアを支援する採用プログラムの導入を検討しましょう。例えば、ITエンジニアのブルーカラー転向の動きは、多様なバックグラウンドを持つ人材が新たな分野で活躍する可能性を示唆しています。 また、採用後のオンボーディングを充実させ、早期に組織に馴染み、スキルを発揮できるような支援体制を構築することも重要です。既存従業員に対しては、リスキリングやアップスキリングの機会を提供し、社内でのスキル転換を促進することで、組織全体の生産性向上と定着につなげます。
対応チェックリスト
- ☐ 従業員満足度調査やエンゲージメントサーベイを定期的に実施し、現状を把握しているか
- ☐ 離職理由を詳細に分析し、具体的な課題を特定できているか
- ☐ 最低賃金引き上げに対応した賃金体系の見直しと、人件費のシミュレーションを実施したか
- ☐ 短時間勤務、フレックスタイム制、柔軟なシフト制など、多様な働き方を支援する制度があるか
- ☐ 従業員のスキルアップやキャリア形成を支援する研修・制度を設けているか
- ☐ ブランクからの復帰者や異業種からの転職者を受け入れるための採用・育成プログラムを検討しているか
- ☐ ハラスメント対策やメンタルヘルスケアなど、安心して働ける職場環境整備に取り組んでいるか
現場で活かすためのポイント
店舗の採用・定着・シフト・パート/アルバイト管理において、これらの動きを現場で活かすためには、まず「従業員一人ひとりの声に耳を傾ける」ことが最も重要です。定着率の低さが課題となっている業種では、従業員の働きがいや組織状態の把握が遅れているという調査結果があります。 店長やリーダーは、日々のコミュニケーションを通じて、従業員が抱える不満や不安、キャリアへの希望などを丁寧に聞き取り、改善に繋げる姿勢が求められます。
次に、シフト管理やパート/アルバイト管理においては、従業員の希望を最大限に尊重し、柔軟な対応を心がけることが定着率向上に直結します。特に、ブランクからの復帰者や子育て中の従業員は、勤務時間や曜日に制約があることが多いため、個別の事情に合わせたシフト調整や、急な休みにも対応できる体制づくりが重要です。これにより、従業員は「ここでなら長く働ける」という安心感を持つことができます。データ活用を通じて、人員配置の最適化や、繁忙期・閑散期に応じた柔軟なシフト調整を行うことで、従業員の負担を軽減しつつ、店舗運営の効率化を図ることも可能になります。
また、人材の見極めにおいては、単なる経験やスキルだけでなく、「行動特性」に注目することが有効です。多様なバックグラウンドを持つ人材が増える中で、過去の職歴だけでは測れない潜在能力や、自社の企業文化との適合性を見極めることが重要です。入社後の成長を支援する視点から、個々の強みを活かせる役割を与え、成功体験を積ませることで、従業員のモチベーションと定着意欲を高めることができます。例えば、行動特性診断の倫理的活用!プライバシー保護と公正な運用も参考になるでしょう。
さらに、従業員エンゲージメントを高めるためには、日々の業務における「働きがい」を意識したマネジメントが不可欠です。単調な作業だけでなく、改善提案の機会を与えたり、顧客からの感謝の声を共有したりすることで、仕事への貢献実感を高めることができます。定期的な1on1ミーティングやフィードバックを通じて、従業員の成長を支援し、キャリア形成を後押しすることも、長期的な定着に繋がるでしょう。これは、離職防止に効く!従業員満足度とエンゲージメントの相関分析にも関連する重要な視点です。
よくある質問
Q. 最低賃金が上がると、店舗の経営はどうなりますか?
A. 最低賃金の上昇は人件費の増加に直結し、特にアルバイト・パートが多い店舗では経営を圧迫する可能性があります。しかし、従業員のモチベーション向上や人材確保の観点からは重要です。生産性向上や業務効率化、価格転嫁などを検討し、対応していく必要があります。
Q. ブランクのある人材を採用するメリットは何ですか?
A. ブランクのある人材は、育児や介護などの経験を通じて培われた高い責任感や問題解決能力、多様な視点を持つことが多いです。また、復帰への意欲が高く、企業への定着意識も強い傾向があります。柔軟な働き方を提供することで、優秀な人材を獲得できる可能性が高まります。
Q. 建設業のように、小売・飲食・サービス業でも働き方改革は必要ですか?
A. はい、必要です。人手不足が深刻化する中で、従業員が長く安心して働ける環境を整備することは、人材確保と定着に不可欠です。長時間労働の是正、柔軟なシフト制度、ハラスメント対策などは、業界問わず従業員満足度を高め、競争力を維持するために重要です。
Q. スキルを持つ人材の採用を増やすにはどうすればよいですか?
A. 従来の採用手法に加え、リスキリング支援を前提とした未経験者採用、異業種からの転職者向けプログラム、シニア層の活用などを検討しましょう。また、自社の求めるスキルを明確にし、求人情報で魅力的なキャリアパスを提示することも重要です。AI・DX化の進展に伴い、デジタルスキルを持つ人材のニーズも高まっています。
Q. 従業員の定着率を向上させる具体的な方法は?
A. 従業員の声を聞き、働きがいや組織状態を可視化することから始めます。その上で、柔軟な働き方の導入、公正な評価制度、キャリアパスの提示、スキルアップ支援、良好な人間関係を築くためのコミュニケーション促進などが有効です。個々の従業員に合わせたきめ細やかなサポートが重要です。
まとめ
- 2026年、医療・福祉業と物流・運輸業で定着率の低さが深刻な課題となっています。
- 建設業では働き方改革が進み、労働条件の改善が人材確保に寄与しています。
- ブランクからの復帰を希望する人材が多数存在し、柔軟な働き方が採用の鍵を握ります。
- ベテランITエンジニアのブルーカラー職への転向意欲は、多様な人材活用の可能性を示唆しています。
- 最低賃金の上昇は人件費に影響を与え、生産性向上と両立する戦略が求められます。
- 小売・飲食・サービス業は、業界特性を踏まえた定着率向上策と、多様な人材が活躍できる環境整備が急務です。
人手不足が常態化する現代において、従業員の定着と多様な人材の活用は、企業の持続的な成長に不可欠な要素です。各業界の動向を注視し、自社の状況に合わせた戦略を迅速に実行していくことが求められます。
出典・参考情報
- 物流・運輸業の35.4%が「定着率低い」と回答(LOGISTICS TODAY)
- 最低賃金に関する企業の実態調査(2026年9月)(株式会社帝国データバンク)
- 「人事部トレンド定量調査2026」を発表 人事課題の重心は2021年調査から人材の「定着・活躍支援」へシフト(株式会社パーソル総合研究所)
- 物流・運輸業の35.4%が「定着率低い」と回答
- 医療・福祉業の“定着率の低さ”が42.4%で全業種で最多に 建設業は“採用”、物流・運輸は“定着と組織把握”に課題 | HRog | 人材業界の一歩先を照らすメ
- prtimes.jp
- ミイダスが就業者調査、医療・福祉の定着率の低さは42.4%で全業種中最多 | Dellows News(デロウズニュース)
- 医療・福祉業の人材不足をどう乗り越えるか―採用難の中で見落とされる「組織内の打ち手」 - パーソル総合研究所
※本記事は2026年10月16日時点の公開情報をもとにデータコム編集部が作成したもので、個別の法的・税務的判断を示すものではありません。具体的な対応は所管官庁の資料や専門家にご確認ください。