人事評価・制度

副業・兼業制度 整備の要点:就業規則改定からトラブル防止まで

公開日: 2026.09.17
副業・兼業制度 整備の要点:就業規則改定からトラブル防止まで

働き方改革や多様なキャリア形成へのニーズの高まりを受け、副業・兼業制度の導入・見直しは企業にとって喫緊の課題です。しかし、制度設計の不備は労働時間管理の複雑化、情報漏洩、本業への支障といった予期せぬトラブルを招きかねません。本記事では、副業・兼業制度を円滑に運用するための就業規則改定、適切な管理、そしてトラブル防止策を詳細に解説します。

副業・兼業制度導入でよくある課題・失敗パターン

副業・兼業制度の導入は、従業員の自律的なキャリア形成支援やスキルアップ、採用競争力強化といったメリットをもたらす一方で、適切な準備を怠ると様々な課題に直面する可能性があります。ここでは、企業が陥りやすい失敗パターンとその具体的な内容を整理します。

課題・失敗パターン 具体的な内容
労働時間管理の複雑化 本業と副業の労働時間が通算され、法定労働時間を超過するリスク。残業代発生や健康管理義務の増大。
情報漏洩リスクの増大 従業員が副業先で本業の機密情報やノウハウを漏洩する可能性。競業避止義務違反のリスク。
本業への支障 副業による疲労蓄積、集中力低下、パフォーマンス悪化。健康状態の悪化や過労のリスク。
公平性の欠如とエンゲージメント低下 副業申請の承認基準が不明確で、従業員間に不公平感が生じる。特定の従業員への業務集中。
労災認定・安全配慮義務の範囲不明確化 副業中の事故や健康問題が発生した場合の労災認定や、企業が負うべき安全配慮義務の範囲が不明瞭になる。
税務・社会保険手続きの複雑化 従業員の確定申告や、社会保険料の二重徴収・過不足発生など、手続きが煩雑になる。

これらの課題は、企業の生産性低下や法的リスク、ひいては企業イメージの損害につながる可能性があります。厚生労働省が推進する「働き方改革」の一環として副業・兼業を容認する動きが加速する中で、企業はこれらのリスクを適切に管理し、制度を整備していく必要があります。詳細については、働き方改革の今!労働法改正と人事担当者の対応もご参照ください。

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失敗が起きる根本原因

副業・兼業制度導入における失敗は、単なる手続き上の問題だけでなく、より根深い原因に起因することが少なくありません。主な根本原因として、以下の点が挙げられます。

  • 制度設計の甘さと明確性の欠如
    就業規則における副業・兼業に関する規定が曖昧であったり、具体性に欠けたりする場合、従業員はどこまでが許容されるのか判断に迷い、企業側も一貫した対応が難しくなります。特に、許可基準や情報漏洩防止措置、労働時間通算のルールなどが不明確なままでは、トラブル発生の温床となります。
  • 従業員とのコミュニケーション不足
    制度の目的やメリット・デメリット、具体的なルールが従業員に十分に伝わっていない場合、誤解や不信感を生みやすくなります。制度導入時の説明不足や、導入後の定期的な情報提供・相談機会の欠如は、従業員の不安を増大させ、隠れて副業を行うなどのリスクを高めます。
  • 管理体制の不備とツール活用不足
    副業・兼業を行う従業員の労働時間、健康状態、業務パフォーマンスなどを適切に把握・管理するための体制が整っていない場合、本業への支障や過重労働を見過ごす可能性があります。また、勤怠管理システムや申請フローのデジタル化が進んでいないと、人事担当者の業務負担が増大し、管理の精度も低下します。
  • リスクアセスメントの不足
    副業・兼業によって発生しうる情報漏洩、競業避止義務違反、本業への支障、労災リスクなどについて、事前に十分に検討し、具体的な対策を講じていない場合、いざトラブルが発生した際に迅速かつ適切な対応ができません。
  • 法改正への対応遅れ
    労働基準法や労働安全衛生法、所得税法など、副業・兼業に関連する法令は常に変化しています。これらの法改正をタイムリーに把握し、自社の制度や運用に反映できていない場合、法的なリスクを抱えることになります。

対策・解決策:トラブルを未然に防ぐ制度設計と運用

副業・兼業制度を成功させるためには、上記で挙げた根本原因を解消し、戦略的かつ具体的な対策を講じることが不可欠です。以下に、主要な対策と解決策を詳述します。

就業規則の明確化と改定

副業・兼業制度を導入・運用する上で最も重要なのが、就業規則の整備です。厚生労働省の「モデル就業規則」を参考にしつつ、自社の実情に合わせた具体的な規定を設ける必要があります。

  • 許可制か届出制かの明確化
    原則として副業を容認しつつ、企業が把握すべき情報を得るために「届出制」を基本とし、特定の業種や職種、または特定の条件(競業、情報漏洩リスクなど)に該当する場合のみ「許可制」とするといった柔軟な設計が考えられます。許可制の場合、許可・不許可の基準を明確に定めることが重要です。
  • 競業避止義務・情報漏洩防止規定の明記
    従業員が副業を通じて知り得た本業の機密情報やノウハウを漏洩しないよう、具体的な禁止事項と罰則を規定します。また、競業他社での副業を禁止する旨も明確に記載し、対象となる企業や業務の範囲を具体的に示します。
  • 労働時間通算に関する規定
    労働基準法第38条では、本業と副業の労働時間は通算されるとされています。これに基づき、従業員が副業を行う場合の総労働時間の把握方法(自己申告制、勤怠記録提出など)と、法定労働時間を超える場合の対応(残業代、健康管理など)を明確に定めます。
  • 安全配慮義務・健康管理に関する規定
    副業による過重労働や健康障害を防止するため、従業員に健康状態の報告を義務付けたり、必要に応じて産業医面談を実施する規定を設けます。本業への支障が認められる場合の対応も盛り込みます。
  • 懲戒処分に関する規定
    就業規則に違反し、本業に重大な支障をきたした場合や情報漏洩が発生した場合などの懲戒処分について、その内容と手続きを明確に規定します。

適切な情報開示と従業員教育

制度がどれだけ整備されていても、従業員に正しく理解されていなければ意味がありません。透明性の高い情報開示と継続的な教育が不可欠です。

  • 制度導入の目的とメリットの共有
    企業がなぜ副業・兼業を容認するのか、その背景にある考え方や従業員にとってのメリット(スキルアップ、キャリア形成支援など)を丁寧に説明します。
  • ルールの周知徹底
    就業規則の改定内容や申請手続き、注意点(情報漏洩、労働時間管理など)を説明会や社内ポータル、ハンドブックなどで繰り返し周知します。疑問点を解消するためのQ&Aも用意すると良いでしょう。
  • リスクに関する教育
    情報漏洩のリスク、過重労働による健康被害、本業への支障がもたらす影響など、副業・兼業に伴うリスクについても従業員に教育し、自覚を促します。

労働時間・健康管理の徹底

従業員の健康を守り、本業のパフォーマンスを維持するためには、労働時間と健康の適切な管理が不可欠です。

  • 自己申告制と定期的な確認
    従業員に副業の労働時間を定期的に報告させる仕組みを導入します。勤怠管理システムと連携させることで、総労働時間の可視化と集計を効率化できます。
  • 産業医との連携強化
    副業によって健康不安を抱える従業員がいれば、産業医との面談を促し、適切な指導やサポートを提供できる体制を整えます。特に、長時間労働が懸念される従業員には積極的に介入します。
  • 勤怠管理システムの活用
    本業と副業の労働時間を一元的に管理できるシステムや、従業員が副業の勤怠を正確に記録・申告できるシステムを導入することで、人事担当者の管理負担を軽減し、データの精度を高めます。

評価制度・報酬体系の見直し

副業・兼業を容認する環境下では、従来の評価制度が機能しなくなる可能性があります。本業への貢献度を適切に評価し、公平性を保つための見直しが必要です。

  • 成果主義的要素の強化
    労働時間ではなく、本業での具体的な成果や貢献度をより重視する評価体系への移行を検討します。
  • 多面評価の導入
    上司だけでなく、同僚や部下からのフィードバックも取り入れることで、多角的に従業員のパフォーマンスを評価し、公平性を高めます。
  • キャリアパスとの連携
    副業で得たスキルや経験を本業に活かせるよう、キャリア面談の機会を設けたり、人材ポートフォリオ管理の視点を取り入れたりすることも有効です。詳細については、人材ポートフォリオ管理とは?戦略的な人材配置の実践ガイドをご参照ください。

コミュニケーションの強化と相談窓口の設置

従業員が安心して副業・兼業に取り組めるよう、企業はサポート体制を充実させる必要があります。

  • 定期的な面談の実施
    副業を行う従業員に対して、上司や人事担当者との定期的な面談を義務付け、本業への影響や健康状態、困りごとなどをヒアリングします。
  • 相談窓口の設置
    副業に関する疑問や不安、トラブルが発生した際に、従業員が気軽に相談できる窓口(人事部、外部カウンセリングサービスなど)を設置します。匿名での相談も可能とすることで、早期発見・早期解決につながります。

予防・再発防止の仕組みづくり

一度制度を整備して終わりではありません。副業・兼業制度は社会情勢や従業員のニーズに合わせて常に進化させていく必要があります。予防と再発防止のための仕組みを構築することが、持続可能な制度運用の鍵となります。

  • 定期的な制度見直しと改善サイクル
    副業・兼業制度は、導入後も定期的に運用状況を評価し、改善を繰り返すことが重要です。従業員アンケートや面談を通じてフィードバックを収集し、就業規則や運用の実態との乖離がないかを確認します。法改正があった際は速やかに対応し、常に最新の状況にアップデートしていく必要があります。
  • 担当者育成と情報共有
    人事担当者や管理職が副業・兼業に関する最新の法知識や運用ノウハウを習得できるよう、定期的な研修を実施します。社内での情報共有の場を設け、成功事例や課題、対応策などを共有することで、組織全体の対応力を高めます。特に管理職には、部下の副業状況を適切に把握し、本業とのバランスをサポートする役割が求められるため、管理職研修の効果的な設計方法も参考に、マネジメント力強化を図るべきです。
  • データ活用によるモニタリング
    副業申請数、承認率、副業による本業への影響度(パフォーマンス変化、勤怠状況、健康状態など)といったデータを継続的に収集し、分析します。これにより、制度の効果を定量的に把握し、潜在的なリスクを早期に発見することが可能になります。例えば、特定の部署で副業後のパフォーマンス低下が顕著な場合、その原因を深掘りし、対策を講じるといったアプローチが考えられます。
  • リスクアセスメントの継続的な実施
    新たな副業形態や技術の登場、社会情勢の変化に伴い、副業・兼業に伴うリスクも変化します。定期的にリスクアセスメントを実施し、想定されるリスクの種類や発生確率、影響度を再評価します。その上で、リスク軽減のための新たな対策を検討し、必要に応じて制度や運用方法に反映させていきます。
  • ウェルビーイング施策との連携
    副業は従業員のスキルアップや自己実現を促す一方で、過重労働やストレスの原因となる可能性もあります。副業・兼業制度の運用は、従業員の心身の健康を支援するウェルビーイング施策と連携させることが重要です。従業員の心身の健康状態を定期的に把握し、必要に応じて適切なサポートを提供できる体制を構築することで、副業によるネガティブな影響を最小限に抑え、ポジティブな効果を最大化できます。関連情報として、職場のウェルビーイング向上施策もご参照ください。

実践チェックリスト:副業・兼業制度の整備状況を確認する

自社の副業・兼業制度が適切に整備され、運用されているかを確認するためのチェックリストです。各項目について現状を評価し、改善が必要な点を見つけ出しましょう。

チェック項目 対応状況(はい/いいえ/検討中)
就業規則に副業・兼業に関する規定が明確に盛り込まれていますか?
許可制・届出制の基準、許可・不許可の判断基準が具体的に定められていますか?
競業避止義務、情報漏洩防止に関する規定が明確に記載されていますか?
本業と副業の労働時間通算に関するルールが規定され、従業員に周知されていますか?
従業員の健康管理(過重労働防止、産業医面談など)に関する規定がありますか?
副業申請から承認までの明確なフローが確立されており、デジタル化されていますか?
従業員への制度説明会や情報提供が定期的に実施されていますか?
副業に関する相談窓口が設置され、従業員に周知されていますか?
人事担当者や管理職向けの副業・兼業に関する研修が実施されていますか?
副業・兼業制度の効果測定や改善のためのデータ収集・分析が行われていますか?
社会保険や税務に関する情報提供、または手続き支援の体制がありますか?
制度導入後も、定期的な見直しと改善のサイクルが確立されていますか?

よくある質問

Q. 副業・兼業を原則禁止することは可能ですか?

A. 厚生労働省のモデル就業規則では原則容認の方向性ですが、企業秩序を乱す場合や情報漏洩リスクがある場合など、合理的な理由があれば制限・禁止は可能です。ただし、一律禁止は認められにくい傾向にあります。

Q. 従業員の副業における労働時間の管理はどうすれば良いですか?

A. 本業と副業の労働時間は通算されます。従業員からの自己申告を基本とし、勤怠管理システムや報告書で副業の労働時間を把握・記録します。必要に応じて労働時間の調整や健康面での配慮が求められます。

Q. 副業による情報漏洩リスクにはどのように対処すべきですか?

A. 就業規則に競業避止義務と情報漏洩防止規定を明確に盛り込むことが重要です。入社時や制度導入時に従業員教育を徹底し、具体的な事例を挙げてリスクを周知することも有効です。

Q. 副業申請を却下できるのはどのような場合ですか?

A. 本業に支障をきたす、情報漏洩や企業秘密の漏洩リスクがある、競業に該当する、企業の名誉や信用を損なう恐れがあるなど、合理的な理由がある場合に却下できます。却下基準を就業規則で明確化し、公平な判断が求められます。

Q. 副業・兼業制度導入のメリットは何ですか?

A. 従業員のスキルアップやキャリア形成支援、エンゲージメント向上、優秀な人材の獲得・定着、イノベーション創出などが挙げられます。多様な働き方を許容することで、企業の競争力強化にも繋がります。

まとめ

副業・兼業制度は、従業員の多様な働き方を支援し、企業の競争力を高める上で重要な施策です。しかし、その導入と運用には、就業規則の適切な改定、労働時間や健康の管理、情報漏洩対策、そして従業員との密なコミュニケーションが不可欠となります。

本記事でご紹介した「よくある課題・失敗パターン」とその「根本原因」を理解し、「対策・解決策」を実践することで、企業は副業・兼業に伴うリスクを最小限に抑えつつ、そのメリットを最大限に享受できます。特に、就業規則の明確化、従業員への情報開示と教育、そして継続的なモニタリングと改善の仕組みづくりが成功の鍵を握ります。

変化の速い現代において、企業が持続的に成長するためには、柔軟な働き方を支える制度設計と運用が不可欠です。本記事で提示した「実践チェックリスト」を活用し、貴社の副業・兼業制度が従業員と企業双方にとって最適なものであるか、定期的に見直しを図ることを推奨します。

副業・兼業制度の導入・運用は、組織の成長と従業員のエンゲージメントを高める重要な施策です。

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